ノンフィクション

 

 

プリンセス・オヴ・ウェールズ ~英国皇太子妃列伝~ 

ジョーン・オヴ・ケントからダイアナ・スペンサーまで、歴代の英国皇太子妃の伝記が一冊にまとまっています。皇太子妃は生まれながらの王室メンバーではないので、結婚後の生活に多くの戸惑いがあったのでしょう。そのなかで彼女たちが自らの役割をどう認識していたか、どのような態度を貫いたのか、一人の女性の生き方としても知ることができます。

日本では単なる称号のようにしか思われていない「ウェールズ君主の妻」であることの意味も説明されているのは、著者がウェールズ人だからでしょう。とくにダイアナ妃に関しては、彼女がイングランド人でありながら、なぜあれほどウェールズ人たちに愛されたのかが、よくわかります。

この本の出版当時、チャールズ皇太子が再婚されるとは思われていなかったようで、現在のPrincess of Walesであるカミラ妃についての言及はありませんが、彼女が公的にはこの称号を名乗っていないことにも、それが持つ役割の深さが見えるようです。原著はPrincesses of Wales

 

<歴史文化ライブラリー 350> 

イングランド王国と戦った男

イングランドのノルマン征服から数十年後、支配階級となったノルマン人を父に、ウェールズ王族出身の女性を母に生まれた混血の聖職者、ジェラルド・オブ・ウェールズの物語。青年期にノルマン系であることを誇り、イングランド王宮にも仕えていた彼が、なぜ晩年には自らを『ウェールズのジェラルド(ギラルダス・カンブレンシス)』と名乗り、ウェールズ人としての強烈なアイデンティティを確立したのか。そこには、セント・デイヴィッズ(=ウェール)のカンタベリー(=イングランド)からの教会的独立と、自身の大司教就任への野望がありました。ローマ教皇まで巻き込んだ複雑な政治背景に翻弄された彼の人生が紹介されています。

著者は英国中世史を専門とされる歴史家&エッセイスト。読みやすい文章で、この天才的な人物の数奇な運命にぐいぐいと引き込まれます。

 

物語 ウェールズ抗戦史

ブリテン島が古代ローマ帝国に支配されていたローマン・ブリテン時代の女傑から、アーサー王のモデルとなった武将、カンタベリー大司教に対抗した聖職者、イングランドに昂然と反旗を翻した大公、そして、ついにはイングランド王に戴冠したバラ戦争の勝者まで、ケルトの血が流れるウェールズ人たちの強大な敵との戦いの歴史を紹介。英国史がウェールズの視点から語られることはほとんどありませんでしたが、この本を読めば、イングランドに蹂躙され続けながらも、誇りを失わず、1500年にわたって抵抗を続けたウェールズ人たちの気概に触れることができます。

なかでも、チューダー朝の祖となったヘンリー・チューダーの章では、“われらがアーサー王の再来”と彼を歓呼で迎え、陣営に馳せ参じたウェールズ兵士たちの高揚感に、胸が熱くなります。英国史に興味がある方へのバラ戦争のトリヴィアとしても、おすすめです。